相続 ~ 申告までの道すがら 10

相続権を持つ相続人を確定し、被相続人の「財産明細書」を基に「遺産分割協議書」が完成した先で、道は相続税の申告の要否で分岐することになります。被相続人が相続税の基礎控除額を上回る遺産を残していた場合には、税務署に「相続税の申告書」を提出することになりますが、基礎控除額以下の相続財産の場合は相続税の申告が不要なので、遺産分割協議に従って不動産や預貯金口座の名義変更、現金や動産の分配を行えば、(家庭ごとの個人差はあるでしょうが)一連の相続手続きは「ほぼ完了」と言えるでしょう。

「分岐」と言うと同じ幅の道が二つに分かれていくようですが、相続税の申告を必要とする被相続人は10人に一人に足りません。だからこそ、相続税の申告は丁寧に行う必要があると考えます。

相続税の申告書

所得税の確定申告書の様式と同じように、国税庁のホームページから「相続税の申告書(令和8年分用)」の様式や「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」をダウンロードしたり印刷する事ができます。特に「相続税の申告のしかた」は必要な添付書類や各種特例についても書かれておりますので、ご自身で相続税の申告書を作成されるのであれば入手は必須です。

・相続税の申告書 : 国税庁ホームページ「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」もちろん、過去の年分の申告書や「評価明細書」などの様式も取り出せます。

・相続税の申告のしかた : 国税庁ホームページ「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」は、非常によくできた参考書だと思います。細部に至れば分かりづらい点もありますが、概要を知るには十分ですし、この冊子だけで申告まで対応できる場合もあると思います。

相続税の申告書は第1表から15表までありますが、財産の種類等によって不要なページもあったり、「第○表の付表」が必要な場合もあり、一概に15ページとは言えませんが、数枚記載して完成という訳にはいきません。また、記載の進め方も第1表から書き始めるのではなく第9表の生命保険金などから始めます。この記載順序も「相続税の申告のしかた」に書かれていますので参照してください。

被相続人の財産明細書を転記するのは第11表になりますが、記載する相続税評価額は概算でなく正しく計算した金額を入れましょう。

先ほど、相続税の”申告”が必要になるのは10人に一人もいないと言いましたが、相続税の”納税”となると、更に該当する人は減少します。相続税法では、居住用の自宅等に対する課税の緩和や被相続人の財産形成に貢献した配偶者の税額控除など相続税の申告をすることによって適用できる「特例」が設けられているのです。

・相続税の基礎控除額 : 3000万円 + (法定相続人数 × 600万円)  例えば、相続人が配偶者と子供二人ですと、法定相続人は3人ですので4800万円が基礎控除額となります。財産の合計が基礎控除額以下の場合は相続税の納税はもちろんのこと申告も不要です。

・相続税の配偶者控除 : 配偶者が相続で取得する財産が①1億6000万円 ②法定相続分の、どちらか多い方の金額までは、配偶者には税金がかかりません。例えば、配偶者と子供二人が相続人であった場合で被相続人の財産の総額が2億円だとすると、配偶者の法定相続分(2分の1)は1億円となりますので、分割協議で1.6億円を配偶者が取得しても配偶者に税金はかかりません。遺産総額が20億円だとすると、法定相続分10億円を配偶者が取得しても税金はかかりません。

ただし、特例を満額適用すれば今回の相続税は低くなるかも知れませんが、配偶者の相続(二次相続)にかかる負担は、何も対策しないと大きくなるでしょう。また、大きな税額控除がある事を悪用し配偶者が財産を不正に隠ぺいしていた場合には、控除が適用できる財産から省かれてしまいます。当然、配偶者が取得する事が確定していないような「未分割状態では適用されません」

・小規模宅地の課税の特例 : 被相続人の居住用宅地や商売などの事業用宅地、同族法人の事業用宅地、賃貸住宅や貸駐車場など貸付事業用宅地の一定面積までの相続税評価額の80%(貸付事業は50%)を減額するという特例です。例えば、適用可能面積内の宅地の評価額が5000万円だとすれば4000万円が減額されて課税の対象となるのは1000万円だけとなります。課税価格の総額が減少するという事は、その宅地を取得した相続人だけでなく他の相続人の税金も下がることになりますので、適用の可否判断は重要です。この特例を適用した結果、基礎控除額を下回れば相続人全員の納税額が無くなります。

配偶者控除と同様に「未分割状態では適用できない」ということ以外にも、適用可能な不動産が複数あった場合には適用可能な不動産を取得した相続人全員の同意を要するなど、適用宅地の選択も話し合わなければなりません。(過去のひとり言「未分割だった時の注意点」2026年6月16日公開も参照してください。)

・贈与税額控除 : 以前に、過去の贈与財産が相続税に加算されるという話をしたことがありますが、加算される贈与財産に対して贈与税が課税されていた場合に、加算された相続人が支払った「贈与税」が控除されます。

・未成年者控除 : 相続人が未成年であった場合(注意点がありますので、過去のひとり言「未成年者が相続税の申告をする場合」2026年6月19日 公開も参照してください。)

・障がい者控除 : 相続人が障がい者であった場合(注意点がありますので、過去のひとり言 「相続税の障がい者控除」2026年6月23日公開も参照してください。)

・相次相続控除 : 被相続人が過去10年以内に相続税の申告をして相続税を納付していた場合に一部が控除対象となります。

「相続税の申告と納税」は被相続人に相続が開始してから10か月以内に行わなければなりませんので注意してください。亡くなった方を偲び悲しみに暮れていると、いつの間にか「市役所や金融機関から書類を取り寄せているだけで、期限は目前に迫ってしまった」という話も多いので、まずは、申告が必要かどうかの見極めを優先してくださいね。

もし、最終的に税理士等の専門家に依頼する場合は、満中陰前後までに依頼した方が日程的に安心です。家庭裁判所に申述する場合にも期限がありますから、相続後の流れを知識として知った上で、各種手続きを自分でやる場合でも、司法書士さんや行政書士さんに依頼する場合でも、日程的な余裕が生まれることでしょう。