被相続人が老人ホームに入所中だって!

厚生労働省が平成28年に出したデータによると、介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)に入所している方の約64%の方が85歳以上になります。厚生労働省のデータなので公的施設しか書いていませんでしたが、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向住宅などの民間介護施設を含めると高齢者が自宅を離れて施設に入所する場合も少なくないと思われます。

介護保険施設では90歳以上の入所者割合が一番高い現状を考えると、そのまま施設で看取られる方が多いのではないでしょうか?実は、老人ホームなどの施設で相続が発生した際に、「被相続人の住所地はどこだ?」という事がしばしば問題になります。相続税の申告書は本来相続人がそれぞれの納税地を所轄する税務署に提出するのですが、相続人が複数、または遠隔地に居住していることも珍しくないので、被相続人の住所地に共同相続人が連名で申告するようになっています。

【設例】被相続人甲はB市(所轄税務署はB税務署)にある終身利用できる有料老人ホームに入所していましたが、住民票は自宅のままになっていました。相続人である長男は「被相続人の住所地に提出する」と聞いていたので、住民票の住所地であるA市を所轄するA税務署に相続税の申告書を提出しました。 この長男の判断を「正解」だと考える人は多いようですが、「不正解」になります。

相続税法に定める「住所」は住民登録地(住民票所在地)ではなく、「生活の本拠を言う」とされています。

相続税法基本通達 1の3・1の4共-5 (「住所」の意義)

法に規定する「住所」とは、各人の生活の本拠をいうのであるが、その生活の本拠であるかどうかは、客観的事実によって判定するものとする。この場合において、同一人について同時に法施行地に2箇所以上の住所はないものとする。(平15課資2-1改正)

被相続人が自宅を離れ、終身利用が可能な老人ホームに転居した事は「生活の本拠」を移転させたものと考える方が妥当です。しかし、長期であっても病院に入院していたような場合は「治療後に自宅へ戻るのを前提する一時的な滞在」ですから、自宅が生活の本拠である点に変わりありません。少し紛らわしいのは介護老人保健施設(いわゆる「老健」です。)に入所していたような場合です。老健は、身体機能の低下などで自宅での生活が困難な状態となった方などが、在宅復帰や在宅療養支援を目的として入所する施設です。

つまり、老健も在宅復帰が前提となる施設ですので、生活の本拠は移動していないと考えられますが、昔は最長でも半年ほどしか滞在できなかったのですが、最近はより長いケースも耳にしたことがあります。そうすると、「生活の本拠」という判断に難しいこともありますので、「たぶん、住民票のあるところやろ」なんて思い込まずに専門家の判断を仰いでください。

相続税の申告書の提出先だけでなく、「小規模宅の特例」という大きく課税価格を減少させる特例にも影響してきますが、この特例自体については、別機会に書きたいと思います。